『妹オーディション』

 ネタバレ反転。
 さて新刊ですが。ひさしぶりに物語が大きく展開しはじめた感があります。のんびりだらだらと続いたここ暫くの停滞感を思いっきり吹っ飛ばしてくれそう。そして最終目的さえ示されました。まあ前回(インライブラリーではなくて特別でないの方)の印象からして可南子の目はないと判っていたわけですが、ここでとうとう瞳子に絞られた模様。可南子はこれで基本的には退場でしょう。彼女にはもう少し大きな仕事をさせたかったところですが、次の巻でおそらく彼女にしかできない役割があるでしょうから。



 今回の作品で巧いと思ったのは作品の中に読者の思惑を織り込んだことです。瞳子に対する悪感情(というか認められない、できれば認めたくないという感情)が読者とリリアンの生徒で共有化された結果、作品内でそれらに対するアフターというかフォローを可能にしたのです。そしてその手助けをする乃梨子の存在が大きい。チェリーブロッサムを考えれば彼女が認めたことの意味は計り知れない。

 つまるところ次巻(或いは次々巻まで引っ張れるかも)への伏線であり、由乃さんの妹問題への繋げであり(これで基本的には祥子さま卒業でマリみて終了という目はなくなったように思われるがどうか。集英社的には美味しいが作者的には厳しくなってきた。いつまで続ける?)、最終的には祐巳薔薇さまへの有り様が示される重大な局面と化しました。八方美人のなかに求められるのは強さ。今回でその一旦は垣間見せましたが、乗り越えるべき壁がすぐ傍に残っています。祐巳にしか現せない薔薇さま像とはどんなものだろうか。ここからが本番となる。

 

 次巻でどこまで話を進められるか判らないけれども、読者の瞳子への悪感情を考えれば彼女の立場が一時的とはいえ貶められる可能性があります。祐巳に傷を付けられない現状を思えば彼女を落とすしかない。そして祐巳から妹になってという申し出を瞳子は「一度は断らなければならない」という枷。瞳子の呪縛を解くキーとなるのは恐らく可南子だろう。乃梨子でも良いとは思うが折角の伏線を使わないのは惜しい。

 さあ、レイニーブルーの再現がなるだろうか。次巻を心待ちとしなければならなかったあの鬱々たる時間の再現。
 時期的には恐らくクリスマス。舞台は整った。あとは女優たちの働き如何だろう。

 

 追加。

 武嶋蔦子内藤笙子との絡みも巧くまとめたことを評価したい。というか逢わなかったことへの回答はこれ以外考えられない。じつに巧かった。彼女たちの話がいずれ短編で読めるのだろうか。そして新聞部の新姉妹たち。

 ちょっと苦言を呈したいのは由乃の妹問題に関して。あれはちょっと強引が過ぎた感じが否めない。一巻パロを冒頭で(祐巳自ら)やっているが故に。パターンの底が知れてしまいかねない。というか知られた。「恋(出逢い)は突然」ばかりでは少々食傷になる。武嶋蔦子と笙子の逢い方がよくみえてしまった一因でもある。

 そういや可南子派だった私だけど、もう諦めてたのかショックは全然無かった。というか乃梨子の心情描写を使った今野さんのうまさ(もう少し隠しても良いのだろうけど、対象読者の設定年齢を考えればあれだけあからさまにしないと気付かれないだろう。というか今作品については久々に行間を読む楽しさがあった。相変わらず祥子さま素直じゃないなぁ(笑))とあの涙を流している挿絵にのせられたのだろう。あれは破壊力抜群だった。悔しくも嬉しい。
 次が待ち遠しい。