未来の白地図

 なんか雰囲気違くね?
 この作者、わずか一日の(或いは一瞬の)出来事をあり得ない密度で書いてみたかと思えば、修学旅行のようなつまらない話を平然と書いてみたりする。よくわからない。ホントに。
 んで最新刊。


 いわゆるスール前哨戦というわけで、決着は次巻か、延ばしても次々巻で決まることだろう。もちろん決着とは瞳子祐巳の姉妹に収まるということである。それ以外の方策があったら指さして笑う(笑
 瞳子祐巳からの申し込みを断ったことについては前回あたり(http://d.hatena.ne.jp/tegteg/20050527#p2)で述べたとおり通過儀礼に他ならない。そもそも初手から受けられたら話にならない。紅薔薇姉妹はほとんど同じような課程を歩むので判りやすいといえばわかりやすい。
 そして瞳子の方の問題。おそらくは女優としての勉強をしたいと望む瞳子と、医者になって欲しいと願う両親(&爺)との軋轢であろうと思われる。いまのところ祖父が病院長である以外の情報はないのでとりあえずそう断定しておく――。が、まあその軋轢がなんであれ瞳子は優しいが故に保護者の期待を裏切れないでいるのだ(そして彼女は一人っ子であることが確認された)。この辺り、多分に祥子の状況とも一致するのだと思われる。作者的には瞳子の問題を祐巳に解決させることで、将来訪れるであろう祥子での同様な問題への指針にしたいのではないだろうか。それが前巻より示され始めた本質的な問題の「答え」に他ならない。
 一巻時点より引っ張り続けている柏木優と祥子の婚約者問題は、実のところ祐巳にしか解決できない。柏木優が婚約者問題を解決(解消)しようとしているのは祥子がそれに縛られていると思っているからだろう。彼は祥子が「優を好き」だったことを知らない。おそらくそれを知ったとき彼は悩むことになるだろう。そしてそれを彼に伝えられるのは祐巳しかおらず、現在の祥子の思惑も知れるのは祐巳しかいない。祐巳にとっては不本意ではあるだろうが、今後の柏木優の描かれ方をみていけば作者の最終的な思惑が透けてくる。福沢祐麒の彼に対する反応もそれに寄与するだろう。
 これからのマリみてはおそらく学内だけのお話ではなくなっていく。初期の頃のあのどこか童話めいたゆるやかな雰囲気を味わうことはもうできないのかもしれない。寂しいことだがキャラクターは成長していくものである。応じて器も広げていかねばならない。しかたないことだろう。
 黄薔薇姉妹についても述べたことがあるが、令がリリアンを去るというのも想定の範囲だった。そのほうが有馬菜々由乃を絡ませやすいからだ。由乃離れというのもお題目として打って付けである。ただ今回の短編はなかなか切れ味が良かった。久々に作者の力量をみたおもいだった。卒業とかのシーズンになるにつれて調子が上向くのが作者の特徴なのかもしれない。それは今後に向けて期待値を高めてくれるだろう。
 由乃有馬菜々の関係についてはほとんど心配はない。七割が前途多難という由乃の想像はおそらく無用に終わるとみている。「妹にして頂けないんですか?」「そのつもりでいたんですけど……」とか言われてオタオタするだろう由乃の図は面白くはある。南無。 
 白薔薇姉妹については、今後、乃梨子の方がメインを勤めることになるだろう。志摩子さんの物語はおそらくもう終わっている。あるとしたら兄絡みのトラブルだろうが、それは本人の物語とはいえない。ただ信仰心の在り方についてはまだ……。
 
 しかし作者は何処まで話を続ける気だろうか。祐巳が卒業する時点、というのが今のところ最有力だが、短くするなら祥子の卒業だろう。長くするならとんでもないところまで行きそうで怖くもある。悪い言い方かもしれないが、マリみてはいい加減シリーズとしての活力を失っているところがある。そろそろ引け際も考えておかなければならないのではないだろうか。それはすごく寂しいことではあるけれど、終わらない物語というものはないのだから。