『薬師寺涼子の怪奇事件簿〜夜光曲〜』田中芳樹

 些か惰性で読み続けている感もなくはないわけですが、田中芳樹の最新刊です。どうしてかいままでとは違う出版社から出てくるという。まーその辺はどうでもいい訳ですが。
 つまるところ田中芳樹というひとは小説家というより物書き、と読んだ方が良くて、むしろテキストライターとしてが一流なんじゃないかという気が最近はするわけです。文章技術だけが飛び抜けて良いとか。だから物語を紡ぐというより、年表書いてイベント決めてそれから本文書く方がいいというか、銀英伝みたいな歴史物だと粗があまり見えなくなるというか。政治風刺も好きなだけ入れられるしね。
 んでライトノベル風な作りをしなければならないこの作品の場合、次々とイベントが連鎖するわけですがそれだけイベントを重ねてもなぜか盛り上がりに欠けてしまうという欠点が重くのしかかります。起承転結で言えば、起承結になってるみたいな。いや結も怪しいかな。特に最近では涼子が裏でいろいろやっててそれを黙ってるだけという物語構造なんで緊張感がないこと甚だしいわけです。ダーティペアの時の高千穂遙なんかと似たような傾向と言えばいいんでしょうか。おかげで最近の楽しみは涼子と泉田くんの初な会話(あからさまにやってるので田中芳樹の術中にはまってる自分が情けないけど)とふたりのフレンチメイドだけになってきてるんですが。
 まあたぶん創竜伝なんかの合間、息抜きで書いてる部分もなきにしもあらずでしょうからこうなるのも必然なんでしょうね。しかしアルスラーンとかタイタニアの四巻はいつでるんでしょうか。もう十四年近く経つはずなんですが。まあ恐らくはあんな閉塞的な状況にしてしまったことに嫌気(どう収拾つけりゃいいんだよ、みたいな)をさしてるんでしょうけど。それとも二匹目の泥鰌かな?
 ……気持ちは判らなくはないけど(苦笑