というか没稿、電撃short3

 ネタが無茶苦茶でしたわ。そもそもこんな短い話向きじゃないし。削りすぎて意味不明。あと説明文過多。ダメダメの見本。



 『群れる青と雲』


 怜奈が死んだ。
 交通事故だった。救急車が着いたときにはもう息がなかったらしい。即死だったと聞いた。
 通夜の晩、僕が対面した怜奈には右頬に大きなガーゼが貼ってあった。彼女に似つかわしくないそれを破がしてみると痛々しい縫合の跡が姿を見せた。完全にはくっついていない傷跡はその隙間から彼女の断面をはみ出させ、やっぱり怜奈には似つかわしくない引きつったような表情を作り上げていた。
 
 粛々と進んだ葬儀は何事もなく終わり、怜奈の遺体は霊柩車に乗せられ火葬場へと向かった。僕は親族の乗るマイクロバスへの同乗を断り自分のフィアットで向かうことにした。
「ねえ、乗せてもらってもいい?」
 運転席でシートベルトを締めていると助手席のドアが開いて一番顔を見たくなかった彼女が訊いてきた。僕が返事を躊躇っていると彼女はそれを肯定と受け取ったのかするりと助手席に滑り込んできた。僕は軽く息を吐くと黙ったまま車を発進させた。
 
 三十年前に一億を割ったこの国の人口はその後も減少傾向に歯止めが掛からず、いまでは二千万にようやく手が届くかどうかという状態になっていた。しかもその半数以上を八十歳以上が占めていて、二十歳未満の人口は全体の1%に満たない。経済大国で鳴らしたこの国もいまでは労働者に事欠く有様でGNP比ではもはや先進国から脱落しつつあった。事ここに至って民族滅亡を危惧した政府は内外からの批判を封殺し、治療用を名目に「ヒトクローン」の生産を認めることにした。
 それが約二十年前のこと。いまこの国では当たり前のように「ヒトクローン」が往来を歩き回っている。しかし彼らはあくまで治療用クローンであり、その存在価値はあくまで代替物としてのみ認識されることになっていた。つまり彼らには基本的人権は認められていない。
 
 「ヒト」ではなく「ヒトクローン」
 
 だから助手席に座る彼女には名前がない。あるのは個体認識のために付けられた登録ナンバーだけ。
 クローン達のクローンが作成され始めてまだ二十年に満たない。彼らがもしこの先、参政権を得たとして、選挙を通じて自らの立場を向上させようとしても民意の大多数を形成できるのは遙か先の話だろう。それまで彼らは「ヒト」と認められない。
 
 そして治療用として生産された彼らはその必要がなくなれば当然、廃棄される。
 怜奈の移植用の臓器を保持するために生きてきた彼女は、怜奈がいなくなったことで本来の目的を果たし得なくなった。法律によればクローン保持者の死亡、機械化、脳死等の理由により代替クローンが使用できなくなったとき、又は不要となったときは、当該クローンを速やかに破棄しなければならない、と定められている。
 
 彼女はいずれ遠くない未来に破棄されることになる。
 或いは研究用として大学に引き取られたりするのかもしれない。間違いないのはこのまま生きていくことはできないということだ。
 
 僕は怜奈が好きだった。
 幼馴染みとして十五年。恋人として三年。気が早いと言われるだろうけど彼女との結婚だって考えていた。なのに彼女は死んでしまった。僕を残して。
 
「悲しいね」
 助手席の彼女がぽつりと呟いた。
 それは怜奈が死んだことにたいしてだろうか。それともこれから彼女が受け入れなければならない運命にたいしてだろうか。
 隣にいる彼女は怜奈そっくりだけど遺伝子が同じなだけの別の存在だ。怜奈の代替物ではあっても代わりではない。もし僕が彼女に怜奈を重ねてしまったら、それは怜奈にも彼女にとっても酷く失礼なことなのだろうと思う。
 
「――ああ、悲しいね」
 夕空に手向けた線香のように火葬場の煙突が見えてきた。群れる青と染まる雲。
 もうすぐあの場所で怜奈のすべてが灰になり、空に還っていく。