戯れ言

 新刊「薔薇のミルフィーユ」についての想像をあれこれと巡らしていたとき、ハタと気付いたことがある。十二月に出るらしい短編集に書き下ろしの新作があるだろうというのは間違いないところだが、その内容に瞳子主観の「レイニーブルー」なんてものを持ってこられたら私的には甚だマズイのではないか、ということである。
 
 「妹オーディション」で一般の生徒が薔薇の館に手伝いに来る描写(場面)があったが、あれはつまるところ瞳子や可南子が特別であることを印象づける為のものである。(笙子の顔見せとしての一面もあるけれど)
 瞳子というキャラクターは一般的に読者からあまり快くは思われていなかった(無論、好きな人も多いが)。作者もそれに気付いているようで、ここ数作では彼女をネガティブに見せるような描写を控えている。パラソル以前(正確にはチェリーブロッサムレイニーブルー)とそれ以後の彼女はまったくの別キャラと思っても良いぐらいである。
 もともと祐巳のライバルとして登場させたはずの彼女だが、作者はどうも彼女を気に入ってしまって、使い捨てられなくなったようである。もともとマリみての原点とも言える「銀杏の中の桜」で登場した彼女は乃梨子と共にマリみての初期キャラクターのひとりである。作者の思い入れも深いだろうと想像することは容易い。
 
 ところが祐巳視点で紡がれる本編において彼女は実に使いにくい。同級生でもないし同じクラブ(祐巳はクラブなんて入っていないし)でもないから物語に登場させにくいのだ。恒久的に登場させられるようにするなら、薔薇の館に出没させるしかないが、掻き回し役(チェリーブロッサムのような)では物語の流れを阻害してしまう危険がある。読者も安心して読み進められない。やむなく当初はお手伝いという役を与えることで問題を先送りした。ところが学園祭を終えれば当然のようにお役ゴメンになる。
 しかも祐巳由乃の妹問題という難問が控えていた。可南子というニューフェイスを登場させたものの、彼女の存在はあくまで読者への攪乱だけでしかなかったようだ。いつからかは明確には判断できないが、少なくとも「パラソルをさして」の執筆時点ですでに瞳子祐巳の妹にしようと思っていた節が伺える。
 
 ところが作者の思惑を余所に「レイニーブルー」での瞳子の立ち振る舞いが読者に相当な嫌悪感を与えてしまっていた。読者からの感想あたりでだろうか、瞳子祐巳の妹にしないようにと言う声がかなり多いことに作者は困ってしまったようである。瞳子の行動は物語り上、仕方がなかったことではあるが、読者の反応が作者にとって想定外であったのは間違いない。どうにかそのマイナスを取り戻そうとここしばらく作者は四苦八苦している。そのひとつが前述の一般生徒たちの登場である。
 
 特定のキャラの印象を上げる為には、新しいエピソードを重ねるのが普遍ではあるが、妹問題が佳境に入った昨今では下手をすると引き延ばしと取られることがある。物語の全体的な構成からいってもひとりのキャラにそう多く筆を割けないという事情もある。祐巳視点でもあるだけに本編だけで取り戻すのは甚だ難しいといわなければならない。
 瞳子祐巳の妹に相応しいと読者に納得をして貰う為にはありとあらゆる手段を用いて彼女の印象を良くしなければならない。しかし物語の上で瞳子の印象を上げるのには上記のような制約で限界がある。ではどうするか?
 簡単な方法がある。他のキャラ(一般の生徒)の印象を下げてしまえばいい。瞳子自身にはなにも加えないまま相対的に立ち位置を上げることが出来る。無論これはある意味、錯覚であるわけで現実的にはあまりよろしくないのだが、他に方策の取りようがなかったとも言える。
 
 結局のところ、過去の演出上のツケがいま作者に降りかかっているのだ。
 
 瞳子祐巳の妹に据えないという道筋は今更である。もはや突き進むしかない。
 そうなってくると取るべき方策はそう多くはない。新しいエピソードを重ねるのが正当だが、妹選びも佳境に入ってしまった昨今ではこれ以上引き延ばすのは読者離れを招く危険がある。今度の新刊を入れても二・三作のうちには決めないといけない。それでは新しいエピソードを重ねるのは難しいということになる。
 
 そこでもう一つの道として浮上するのが瞳子嫌いを加速させた「レイニーブルー」のエピソードを利用して、与えていた印象を強引に書き換えてしまう手である。そもそも瞳子のイメージが決定的に悪くなったのは「レイニーブルー」におけるその立ち回りと言動によるものである。物語の演出上、祐巳の絶望を描く為に彼女は読者の恨みを一身で受けなければならなかった。レイニーブルーでは祥子さまがなにを考えているかわからないという状況だったわけだが、これは瞳子にも言えることである。パラソルで一応の説明を見た祥子はともかく、瞳子は一切の説明が無く、従って悪い印象を抱えたままいまに至っている。つまり悪印象を持たせたレイニーでの行動にどういった「瞳子の思慮」があったかを明らかにしてしまえば過去の怨念を払拭できるかも知れない。少なくともその可能性を残しているともいえる。レイニーの規模だから短編で済むという利点もある。
 
 というわけで長々と書いたけれど、この手の想像が当たった試しはないので勘ぐりすぎだとも思う<というか考えすぎです(笑
 レイニーの瞳子視点なんてものが発表されたら、私の書いてる補完SSなんて不必要になってしまうじゃないかと怖いのだけど、そもそも比べるものじゃないよなぁ(笑
 でも締め切り設定された気分ですよ。こんなの杞憂であって欲しいよ。なんでかってAnswerのとき恥ずかしかったんだよ。これでも(笑